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生命原理・自然の摂理
370768 脳を持たない粘菌が集団行動する秘密
 
顧 億睿 ( 23 会社員 ) 21/09/23 PM01
 知恵を持たない菌類だが、個々の個性を持っていて集団の中で役割分担していることが興味深い。自律分散な仕組みで、リーダーがいなくても集団的な秩序形成を起こし、周囲に影響を与えている。生き残り戦略として各細胞には極めて厳しいルールの中で行動している。

すごく単純で原始的な種としての生き方が面白い。

以下リンク

★“飢餓状態”になると集団を形成する
― 単細胞の生物が集団を形成する、ということがとても不思議に思えます。どのようなメカニズムなのでしょうか。

細胞性粘菌は、栄養が十分にある環境では単細胞アメーバとして存在しています。それが集合体となって変幻自在に動き回るようになるのですが、集合するきっかけを作るのは“飢餓状態”です。粘菌が存在する環境に栄養が少なくなると、集団となって子実体(しじつたい)を作るのです。子実体とは、胞子を形成し放出するための“キノコ”のような形態です。子実体となって次世代につながるクローンである胞子を放出するのです。これが、いわば集団を形成する “目的”です。集団を形成する具体的なメカニズムはというと、飢餓状態になったとき、細胞性粘菌が放出するサイクリックAMP(以下、cAMP)という物質がそのカギとなります。
cAMPは、ほかの粘菌に集合を促すシグナルであり、このシグナルを受け取った周囲の粘菌は自分自身も同じくcAMPを周囲に放出します。数百から数万もの細胞のcAMPの放出がそろって、波打つように集合し、子実体を形成するのです。この様子を顕微鏡で観察すると、きれいな渦巻き状の動きが見られます。それはあたかも、サッカースタジアムで観客がウェーブを起こすような、規則正しい動きの連鎖です。指揮するリーダーはいない “たまたま”動き出す



★―気になるのは“誰”がcAMPを出し始めるのか、ということです。
実は、集合を開始するときに最初にcAMPを出す粘菌は、あらかじめリーダーとしての性質が備わっているわけではなく、“たまたま”そうなりやすい状況だっただけのようなのです。

細胞は、遺伝学的に同じであっても、それぞれ個性がありつつ機能的です。これが無機質な人工物にはない面白いところです。粘菌の場合、個性の1つは、cAMPを受け取る受容体やそれを合成する酵素の量です。受容体がcAMPを受け取るとさらに受容体が作られ、より多くのcAMPを受け取るというポジティブフィードバック構造があって、どんどん活性化します。
一方、受容体が少ない粘菌は刺激に反応せず、ポジティブフィードバック構造に入っていかないので不活性のままになりがちです。なぜこうした違いが生まれるか、はっきりしていませんが、それまでの栄養状態や、細胞周期の位置の違い、つまり細胞の育ちなどの違いによるようです。



★種の存続のために自己犠牲を払う利他的行動
― ほかにも、粘菌に個性はあるのでしょうか。

子実体を形成するとき、胞子になる粘菌と、柄え になる粘菌があります。あらかじめどちらになるのか遺伝子に組み込まれているわけでもなく、指揮するリーダーが決めているわけでもない。集団のなかで、おのずと決まるのです。柄になる粘菌、柄細胞は集団全体の20〜25%を占めますが、最終的に自身は胞子塊を支える構造となって死んでしまいます。進化のセオリーに照らせば合理的ではないこのような利他的行動がなぜ出てくるのか、まだよくわかっていません。
 ただ、確かなことは、飢餓状態という環境のもと、子孫を残していくために、リーダー不在でも細胞同士で集団的な秩序形成を起こし、周囲に影響を与え、あるものは胞子へ、あるものは柄となる自律分散的な分業の仕組みが、細胞性粘菌には仕込まれているということです。


★厳しいルールがあってこその自律分散

細胞性粘菌の集団内では、個々の細胞の動きを規定する厳密なルールがあることが、私たちの研究からわかってきています。ヒトの体の細胞もそうで、一部の例外を除いては、それぞれの細胞は組織や器官での役割、振る舞いが決まっています。がん細胞はまさに動物の体のなかで勝手に増えて動き回る細胞ですが、これを捕まえて、駆逐するための免疫細胞が働いています。個々の細胞に自由を与えると大変なことになるため、そのルールに従っていないものをはじく仕組みもあるのです。
細胞性粘菌の場合、柄細胞は自己犠牲を伴う利他的な行動をしますが、それは胞子細胞が自分のクローンであることが担保されてこそ。双子の兄弟である細胞が胞子になってくれる限りは、自分は死んだとしても遺伝学的には自らの子孫を残すことになります。ところが、同種でも遠い親戚の胞子だと、ただ乗りされて自分の遺伝子は残せないことになります。実際、1つの粘菌の集団に野外から採取してきた別の粘菌を混ぜると、それを排除する仕組みがあります。

― ルールで行動と役割を限定された範囲での自由であり、それぞれが複雑な意思を持たないからこそ、自律分散的な構造が生まれるのですね。

 数十億年にわたって熾烈な生き残り競争を繰り返すことによって形成された生物の営みの1つが、細胞の集団化、多細胞化です。生き残れる生殖系列(胞子)と、それを支える体細胞(柄細胞)とが役割分担するからこそ、単独では生き残りにくい環境を克服してきたのです。しかし、集団としての生き残り戦略は、個々の細胞にとっては葛藤をもたらすもので、個々の細胞の自由度は大きく制限されます。そうした制限があるからこそ、我々が目にする多細胞世界の美しく豊かで多様な営みが実現しているのかもしれません。
 
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